アイヌ語・日本語機械翻訳システム構築のための基礎的考察

 [概要]
 アイヌ語と日本語は構文的に類似しており,アイヌ語から日本語への翻訳において,語から語への単語直接翻訳によっても,その意味を理解可能な翻訳結果が得られる.しかし,単語直接翻訳は,そのままでは自然な日本語文とは言えず,自然な日本語文を得るためには,いくつかの変換処理が必要になる.本考察では,単語直接翻訳を基礎として,いくつかの変換処理を組み込んで,アイヌ語から日本語へ漸進的に翻訳を進めて行くしくみについて考察を進めている.以下の記述において,アイヌ語の表記は「アコロイタクAKORITAKアイヌ語テキスト1()北海道ウタリ協会」に準拠して行っている.また,例は,「中川裕,中本ムツ子:エクスプレス アイヌ語,白水社,1997.」からのものである.

[例:アイヌ語・日本語単語直接翻訳と自然な日本語への変換]
    <1>  usey e=ku    rusuy  ya ?  [アイヌ語文:]
         名詞 人接=他動詞 助動詞 終助詞
             ↓  ↓  ↓   ↓   ↓   [単語直接翻訳]
        お湯 あなた=飲む  たい  か ?  [直接翻訳日本語]
       名詞 代名詞=他動詞 助動詞 終助詞
単語直接翻訳は,自然な日本語文とは言えず,引き続き,次のような変換処理が必要であると考える.
         お湯         あなた=飲む    たい か?
         <格助詞付加><格助詞付加>
         お湯    あなた=飲む たい か?
                <人称接辞φ化><語形処理>
         お湯を                飲 たい か?
単語直接翻訳から自然な日本語文への変換処理は,文法的,語彙的な知識と文脈に依存して進められる.
[単語直接翻訳から自然な日本語文への基本的な変換処理]
単語直接翻訳から自然な日本語文への基本的な変換処理を現時点で次のようにまとめている.
[1]付加処理  :格助詞付加,の付加
[2]削除処理  :人称接辞φ化,位置名詞φ化
[3]変形処理  :語形処理,の格化
[4]連結処理  :所属形連結
[5]並べ替え処理:語順変化


 [アイヌ語・日本語機械翻訳システムの試作]
 基本的な変換処理を組み込んで,アイヌ語文を左から右へ読み進みながら,漸進的に翻訳を進めていくしくみについて検討を進め,第1次近似的な翻訳システムの試作を行った.


・例<1>を含めて,4文をテキストファイルから読み込んで翻訳を行った結果が示されている.
2番目の文は,否定の副詞"somo"を含んでいて,これは日本語と語順が異なり動詞の前に置かれる.従って並べ替え処理が必要になる.
3番目の文は,「の格化」の例.
4番目の文は,「所属形連結」の例.
5番目の文は,名詞の多義の例.

・システムはJavaで作成されている.


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