TOP研究計画▽視覚・画像情報処理研究グループ

I.視覚情報処理に関する研究
─ヒトの視覚機能の解明とその工学的応用を目指して─


1.視覚誘発電位及び視覚性事象関連電位の計測・解析による脳内視覚情報処理機構の解明

  ヒトが課題を遂行するときには、「視覚・知覚→認知→評価→判断→行動」の過程を想定することができる。従来、感覚誘発電位(Sensory Evoked Potential:SEP)は、上記過程における感覚・知覚を捉えるために利用されてきた。最近では、認知以降の脳内高次情報処理過程を調べるために、事象関連電位(Event-Related Potential:ERP)が導入されている。たとえば、ERPに含まれる脳波成分P300は、刺激の弁別性,反応ストラテジー、注意などによって変動する。この脳波成分はヒトの認知過程を反映すると言われ、刺激提示後300ミリ秒で現れる正の電位変化である。P300の変化は、これらの要因の操作に対応した情報処理過程の変化の結果であると考えられる。これらの事象関連電位の変動によって、脳内の情報処理過程が捉えられる。本研究では、視覚刺激を利用した課題遂行時の視覚性事象関連電位を計測し、脳内等価電流双極子推定法によって計測されたデータを解析し、脳内の主な活動滞を推定し、その時間変化を調べることにより、脳内情報処理過程の解明を試みる。さらに、推定結果をMRI画像上へ重ね合わせ表示ができるので、視覚刺激に基づいた課題遂行に関与する脳内部位の特定についても考察を進める。

▲ディジタル脳波計

2.液晶眼鏡を用いた3・D仮想空間表示における眼球運動の計測
 液晶眼鏡3−D表示システムSB300(SOLIDRAY社製)を用い、DOS/Vコンピュータのディスプレイ上で3−D仮想表示システムを作成している。このシステムでCCDカメラからの動画などを3−D仮想空間の画像として表示することができる。本研究では、液晶眼鏡をアイマークレコーダーEMR−8(NAC社製)に組み込むことで、このシステムを用いた時の眼球運動を計測することにより、仮想視野と実際の視野での眼球運動の比較検討を行う。

▲アイマークレコーダーシステム

3.小型自律移動ロボットKhepereへの周辺視機能の応用
 ヒトの視覚機能の一つである中心視と周辺視機能を小型自律移動ロボットKhepere(AAI社製)視覚センサに通用することで効率の良い運動が可能になるか検討することを目的として、周辺視機能がある場合とない場合のロボットの特性を迷路の通過時間で評価する実験を行った。実験の結果をもとに片側検定を行うと、危険率1%で有意差が見られ、周辺視を用いたロボットの有効性が確認された。また、ヒトのもつ自然な処理は常にあいまいさを伴っているため、周辺視のもつあいまいさとさらにフアジイ制御を用いたアルゴリズムによりロボットを制御することで、同様の処理を目指している。


▲視覚誘発電位の双極子推定(NECメディカル)

 

II.光・画像情報処理に関する研究 
─光と画像の統合エレクトロニクス─

光波には,(1) 伝搬速度が高いこと,(1)周波数が高く波長が短いこと,(2)空間情報を処理できること,(3)強度,位相,偏光,波長,コヒーレンスなどの多様な情報キャリアを利用できることなどの特徴がある.これらの特徴によって,光技術は,情報の高速大容量伝送,エネルギーの局所集中,並列データ処理,高精度計測などに適用され,新しい光技術が広範囲の技術分野で次々と利用されている.一方,ディジタル技術に基づく画像処理には,(1) データ処理の自由度が高く,高度な数学的処理が利用できること,(2) ノイズ耐性が高いこと,(3) 計算機技術に基づく知的処理に適することなど,光技術を補完する優れた特徴を有している.このように,光技術と画像技術は将来の情報社会の高度化を達成する先端技術としてその発展が多方面から期待されている.
 本研究は,将来の情報技術の基礎となる「光と画像」に関して,対象の情報を担う「光」の現象と検出データとしての「画像」の処理技術を一連のプロセスとして捉え,種々の応用に結び付けることを目的としている.すなわち,光学理論,光学素子,画像検出器,画像データ処理法等を総合的に扱い,光学情報を波動として伝送,処理する光,これを結像させる光学系,光波情報を画像情報に変換する光電検出素子や撮像素子,より高度な演算処理と知的処理を可能にするコンピュータによる画像処理を,光と画像の最適化された統合システムとして取り扱う光技術の確立を目指している.この目標を達成するため,特に以下のテーマに重点を置いて研究を行う.

1.光散乱場の位相渦に関する研究

光計測では,光の振幅情報は,光強度を検出することで得られるが,そのままでは位相情報は失われるので,それを得るためには物体からの散乱波に既知の参照波を重ねる干渉技術が用いる.つまり,位相情報は干渉縞の形で得られる.レンズや非球面などの形状測定で得られる干渉縞の等位相線は,山岳地形の等高線のように分岐のないループの集合として観測されが,ホログラフィ干渉やスペックル干渉で利用される散乱場の干渉縞には,これとは異なって,分岐や終端をもつ等位相線が現れ,これが位相の渦構造によっている.この研究では,科学技術計算言語MATLABを用いる計算機シミュレーションによって,光散乱場の位相渦の発生メカニズムを追求している.


       ▲位相渦がない場合(左)とある場合(右)の干渉縞


2.画像情報セキュリティに関する研究

光学の分野で開発されたホログラフィの技術をコンピュータによるディジタル演算で実現すると画像情報のディジタルホログラムを一種の暗号化技術として,あるいはまたは,電子透かし技術に応用することができる.この技術の開発を目的にして,情報を画像データとして扱い,それにランダム位相変調を施して作成する拡散型フーリエ変換ホログラムは,結果として,ランダムで統計的に一様な強度分布をもつにもかかわらず,それからいつでも画像情報を完全な形で再生できる.したがって,拡散型ホログラムを元の画像情報の代替として使用すると,ホログラム信号自体は全くランダムな信号であるので,そのままでは元々の画像情報は秘匿され,ディジタルホログラム自体を一つの暗号化技術として見なすことができる.同時にまた,拡散型ホログラムでは,情報がホログラム面全面に一様に分散して記録されるので,ある程度の冗長性をもつ記録メディアとしての特性がある.つまり,ホログラムの一部に付加的な情報を埋め込むことが可能であり,この特性を利用すると電子透かし技術に応用できる.このように,拡散型ディジタルホログラムは,情報の暗号技術として,あるいは電子透かし技術としての両面に利用できる可能性を持っている.



▲物体の画像(上),ディジタルホログラム(左下)および再生像(右下)

3.機能性光波の生成と光計測・情報処理の高度化

近年,光波合成技術への関心が高まり,個々の目的に適した光波を設計・生成する試みが多く行われている.その多くは確定的な光波に関するものであるが,この考えを種々の光計測・情報処理に応用されているランダムな光散乱場にも拡張することも興味深い課題である.この目的から,光技術の精度や特性の向上に適した性質を持つ散乱場を生成する方法を検討し,生成された波動場の特性の解析を行う.特に,長い空間相関特性を有するフラクタル的散乱場や非回折性散乱場などについて,その強度,位相等の諸特性を解明するとともに,具体的応用技術への展開を行う.

▲非回折性散乱場を生成する光学系



▲通常の光散乱場(左)とフラクタル的光散乱場(右)の空間位相分布


4.統計的画像処理に基づく知的計測・情報処理技術の開発

光の強度,位相,波長等の時空間変化に含まれる情報は画像データとして検出される.このようにして得られる画像は,自然画像,干渉パターン,散乱パターン,分光画像など多様であるが,その多くは何らかの意味でランダムな要素を含んでおり,その処理には統計的扱いが重要な役割を果たす.このため,目的に応じた数学的・統計的処理を考案し,適用することにより,そこに潜在する情報を抽出する手法を開発する.その際,特に,ウェーブレット解析,フラクタル解析,バイスペクトル解析,多変量解析など種々の先進的解析法を適用し,情報の効率的抽出と知的処理による高精度な計測・処理法の開発を目指す.

 

▲乾燥状態(左)と雪氷充鎮状態(右)の排水性舗装路面


5.波長領域情報を利用した知的計測・情報処理技術の開発

光波が有する諸パラメータのうち,波長領域に含まれる情報に着目し,検出光波のスペクトル情報に基づく計測・情報処理法を開発する.特に,生体や食品などの複雑な成分構成と内部構造を有する物体のスペクトルから,そこに含まれる情報を高精度・高効率に抽出するためのデータ処理法を考案し,スペクトル解析に基づく光計測法を開発する.また,物体の構造によって発色する構造色現象に関しても検討を行い,構造とスペクトルとの関係を解明する.さらに,スペクトル情報に基づく種々の物体画像の判別,認識法の開発を行う.


 
▲米の近赤外吸収スペクトル(左)とその一般化絶対微分(右)


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